今夜は月がきれいだと思わないか? おれは冬の月が好きだな。 冬の凛とした空気の中だと、 なんだか、光までさえわたってみえる。 久しぶりに、おまえと酒でも飲もうか。 ほら、あのとき一緒に飲めなかったウィスキーだ。 明日一緒に飲めたらいいのだけれど、 ほら、明日はあいつらの誕生日だろ? だから、今日にしたんだ。 ほら、飲めよ。 どうしたんだ?すすまないじゃないか。 ・・・そうか。 じゃ、おれの話を聞いてくれよ。 実は、明日話そうと思ってる。 え?何をかって? 決まってるだろ。 まだ早いって? そんなことないぞ。 なき陛下は11歳の時に自分の人生を決めたんだ。 あいつは12歳だ。 まあ、おれが12歳の時なんて魚釣りに夢中で、 自分の人生なんて考えてなかったけれどな。 ガキだったな。 でも、ガキの時の方が幸せかもしれないな。 何も考えずに生きていけるからな。 ・・・ずっと、夢を見ていられたら、人間は幸せなのかな? そんなことはない。 つらくても、おれは現実を見つめて生きていきたいからな。 自分でも自覚しているよ。 おれもあのとき、心の半分は死んだ。 でも、な。おれはこう考えてる。 おまえは死んだけれど、フェリックスが残った。 おれの心は死んだけれども、そのかわりにあいつらが生まれた。 だから、あいつらはあのとき死んだおれの心の生まれ変わりなんだ。 だから、フェリックスとあいつらは、おれとおまえなんだ。 ・・・笑うなよ。 自分でも何言ってるかわからなくなってきたんだ。 酔いが回ったかな? なあ、おれの話を聞いて、フェリックスはどう思うだろう? 父親を殺したおれを恨むだろうか? あいつがおれを憎んだ方が心が安まるのなら、 おれは憎まれてもいいと思っている。 ただ、憎しみというのは結局はマイナスのエネルギーだから、 それだけにとらわれて欲しくない。 あいつに幸せになってほしい。 ・・・そうか。 おまえも、そう思ったのか? あの女に。 ・・・ああ、きれいな月だ。 |
BGM:Debussy Clair De Luna フェリックス12歳の冬、12月のある夜のことです。 (回りくどい言い方ですが、おわかりですね?) 考えてみるとフェリックスは自分の父親を殺した男を 父親だと思って暮らしているのですよね。 事実を知ったら、フェリックスはどうするのでしょうか? ミッターマイヤーを憎むのでしょうか? そうではないと思いたいです。 ロイエンタールはエルフリーデを愛していたと思います。 本人が自覚していたかはさておき。 たとえそれが屈折した愛ではあったけれど。 |